宇宙の掃除屋が放った「吸引」は、単なる物理的な掃除ではなかった。
それは、この星の「汚れ(生命と地層)」を、宇宙のエネルギー循環システムへと強制的に再編する、神聖かつ無慈悲な「リサイクル」のプロセスであった。
地球の重力圏から引き剥がされた物質の塊は、空間を歪ませながら加速し、巨大な「事象の地平線」へと突き進む。
そこは、光も、時間も、そしてエドワードの存在すらも、一瞬にして「情報の残滓」へと分解される境界線。
傍目から見れば、エドワードは今もあのアドベンチャーの最盛期に凍りついたかのように、事象の地平線に固定されているように見えるかもしれない。
彼の表情は、まだ「美しい……」と呟いた瞬間の、あの恍惚とした狂信の表情のまま。
しかし、真実はもっと動的で、もっと残酷なほどに美しい。
エドワードの肉体も、彼が愛した地層のゴミも、ブラックホールの極限的な重力下で「高度なエネルギー」へと変換され始めていた。
炭素の結合は解け、細胞の記憶は量子的な情報へと変換され、彼を構成していたあらゆる物質は、宇宙の最も純粋な「資源」へと精製されていく。
彼は今、物質としての「人」であることをやめ、純粋な「光の種」へと昇華しているのだ。
そして、宇宙のゴミ処理場(ブラックホール)の対極にある場所――「ホワイトホール」へと、そのエネルギーは再び吐き出された。
それは、数百万光年彼方の、まだ誰も知らぬ銀河の片隅であった。
そこでは、別の文明が、新しい星の誕生を祝おうとしていた。
突如、空間から眩い光の粒子が噴出し、その星の砂となり、海となり、そしてやがて、別の惑星の「豊かな森」を形作る。
エドワードの「美学」は、宇宙の循環の中に組み込まれた。
彼は、ゴミとして吸い込まれ、エネルギーとして再配布され、次の惑星の「美しいゴミ」の一部として、再び花を咲かせる。
宇宙は、巨大なゴミ屋敷であると同時に、完璧なリサイクル工場であった。
どこか遠い銀河の片隅で、新しい生命がその光の粒をかき集め、驚きとともに呟く。
「見て、なんて美しい輝きだ……」
その言葉の響きは、かつて地球の地底でエドワードが漏らした最期の言葉と、完璧なまでの共鳴を果たしていた。
(完)